勇み足サミーNっちゃんが貸してくれた漫画、五十嵐大介著”魔女”。
全2巻ってことで、てっきり続き物だと思っていたのだがさにあらず。【魔女】がテーマの連作集で、いくつかの物語が収録されている。
私のフェイバリットは第2集の”うたぬすびと”。ここに書いてある台詞の数々は実に奥深い。
船上で風を受けた主人公が、自分の存在を強く感じる場面。
『こんなふうに自分の体を感じたのってはじめて!全身の皮フが風をハネ返してるの!わたしの体がここにあるってわかる!わたしはここにいるって感じられるよ!』
ここを読みながら、私が自転車に乗っている時の気持ちよさ心地よさってのはこれだ!と確信した。確実に存在する自分。それを感じることができるから乗るんだと思った。
そして夜の船上で、主人公と彼女が秘かに思いを寄せる男性との会話の場面。
『「リズム」ってのはもともと古代ギリシャの言葉でさ、世界を構成する「アトム」っていう物質の動きを、説明する言葉なんだ。アトムは世界の元だから、世界の全てはアトムでできていて、だから何にでもリズムがある。(中略)母親と子供どうし、どうしても欲しくなった椅子・・・・・・風景に感動したり誰かを好きになることも、互いのリズムが、響きあっているのかもしれない。』
そういうことなんだ。なんとなく波長が合うってことはリズムが合っているってことで、それはピッタリ一緒ってことじゃなくて、お互いのリズムが組み合わさって美しいハーモニーを奏でているってことなんだ。
この男性が主人公に向かって言った。
『他のヤツとは違うお前だから、そのお前と響き合うヤツだっている。』
てことは場末のちんけな飲み屋の店主、酔いどれ35歳独身にもどこぞに響き合うヤツがいるってことだ。そんなヤツは間違いなくちょっと変わった奇特なヤツなんだろう。でもってお互いのおかしなリズムが響き合って、他の人にはよくわかんないようなおもしろいメロディーを奏でるんだろうな。