名山掘り近くのラーメン屋。ガラガラッと引き戸を開けると、スキンヘッドにタオルを巻いた図体のでかい70歳くらいの親父が野太くいい声、しかも標準語で『いらっしゃいませぇっ!!』
いきなりの先制パンチ。気を取り直してメニューを見る。”カツラーメン”が目に留まる。パーコー麺を想像しつつ注文する。『はい、カツラーメン一丁っ!!』野太くいい声、しかも標準語。
テーブル席に60歳くらいの(根本敬が言うところの)イイ顔のおばちゃんが2人。親父がいきなりカウンター越しに話しかける。『おい、カズコ。ガランは仕事をしてないのか?仕事をさせて結婚せんか。ええ?お前はガランを愛しているんだろ?愛してないのか?』野太くいい声、しかも標準語。
平日の真昼間、午後1時半。70のじいさんと60のばあさんが愛してるの愛してないのって、なんてコクのある空間だろう。頭の中は完全にKOされていたが、なんとか平静を装った。そして出されたカツラーメンのスープは親父のキャラのように味濃く、カツは親父の信念のように固かった。
打ちひしがれつつも食べ終わり、勘定をすませた。親父が言った。『ありがとうございますっ!また寄ってくださいよ、大将っ!!』野太くいい声、しかも標準語。
生まれて初めて”大将”と呼ばれた。しかし頭の中では武田鉄矢が歌っていた。親父、「あんたが大将!!」