小学校の同級生男子が初めて来店。最近久しぶりに会った、たまたま鮨屋で。彼は普段はその姉妹店で働いている。もうかなり長い。その日はたまたまヘルプだったらしい。名刺を渡した、「来てみてよ。」の意味を込めて。
ひょこっと現れた彼の第一声は『がんばっちょらいよ。』自分が一目も二目も置いている彼からのこの言葉はうれしかった。そして彼はビールを飲む。チーズを食べる。ビールを飲む。ビールを飲む。思い出して彼に言う。「この間一緒にいたのは妹だよ。」彼は言う。『は?えらいベッピンさんやらいねぇと思ってよ。そうや。それを確認しに来たとよ。もう用は済んだがよ。』彼なりの照れ隠しだと思った。
『そのガトー・オ・ショコラをくれんけ?』「は?ビールと?」『おいは何でもありやっでよ。』用意して出した。「おいしい?俺が作ってるんだけど。」『は?マジで?既製品やろうねぇち思って訊けんかった。うめあいよ。』「よかった。」『おいはもともとケーキ屋の倅やっでよ。』「だったねぇ。忘れてた。」『そん苺のレアチーズケーキもくれ。』用意して出した。少し残したガトー・オ・ショコラを脇にやる。『これは後で食うで。』苺のレアチーズケーキを食べる。『こいもうめぇねぇ。』
ほめられっぱなしが照れくさくて話題を変えた。「子供は何人いたっけ?」『3人よ。上が9歳で下が5歳、と、腹ん中。』「はぁ~。結婚もしてない俺からしたらすごいわ。」『あんね、価値観が変わっど。子供から教えらるっでや。』
脇にやってたガトー・オ・ショコラを食べる。『ほんとは二人で飲めればよかけどねぇ。』ビールの最後の一口を飲み干す。『ごちそうさま。また来っでよ。』
そそくさと帰る彼の後姿を見ながら、この店を始めてよかったと素直に思った。