
コーマック・マッカーシー著、黒原敏行訳、"ザ・ロード"。
森の夜の闇と寒さの中で目を覚ました彼はかたわらで寝ている子供に手を伸ばして触れる。その手は子供の息に合わせて上下する・・・。
何かしらの大事があった後の世界。ほとんどの植物は枯死していて動物もほぼ見ることはない。生き残った人間たちは僅かな食糧を求めて争っている。
そんな世界で生きている父と息子。たまに見つける食料を分け合い、布切れを何枚も纏い、ただ道を行く。希望があるのかすら分からない南へ向かって。
タイトル通り、父と息子がただただ【道】を行く物語。そこは死が充満しているディストピアで、希望の種すら見当たらない。南へ向かって何があるのか。何もない気がするけど、それでも父と息子は道を行くのである。
本当にただただ道を行く物語なので、展開は多くない。ずっと道の風景の描写、父の想い、そして父と息子の会話。極めて読点の少ない文章で描かれ、紡がれるそれらは、不思議となぜかずっと読めてしまう。こんなに陰鬱で暗い話なのに。
もしかしたらこの先に・・・なんていう希望を読者に抱かせない。ずっとヒリヒリしていて、ずっと不安で、ずっとビクビクしている。この2人が向かう先には死しか待っていないんじゃないかと思いながら読み進める。
そんな中で途中にあったシェルターが砂漠で見つけたオアシスみたいでよかった。衣食住が充実していた瞬間だった。この世界しか知らない息子が初めて体験した楽園。束の間の幸せ。あのエピソードがあったからこそ最後まで読めたように思う。じゃないと流石にきつかったかも。
私がこうしている今も、別の世界線で道を歩き続けているのかもしれない、と想像してしまう。