今日11月2日は父の命日です。8年前に他界したので、去年開店した私の店に来たことはありません。それは当たり前としても、私がまだ雇われの身だった頃も、父が客として現れたことはありませんでした。私は父になにかを提供したことがありません。
25歳のとき、私はショットバーで働き始めました。店の買い物途中だった私は、偶然叔父とその友人に会いました。二人はそのまま私が働いていた店に来てくれました。甥っ子の職場訪問みたいな感じです。
翌日か、翌々日、父が私に言いました。
『○○(叔父の名前)が行ったたっちねぇ?おいがいったときはよぉ、ジンライムやっでねぇ。』
へぇー、ジンライム?なんで?いつもビールか、いろいろ漬け込んだ焼酎的なヤツの水割りなのに?
私の疑問は言葉として口から出ることはありませんでした。実際に口から出た言葉は「ふーん」くらいのものです。
その後、半年も経たぬうちに父は帰らぬ人となりました。私が父にジンライムを提供する機会はないままでした。
その翌年、一周忌の夜、私はどこぞのバーでジンライムを頼みました。でもこれが父がオーダーしたものだとは全然思えませんでした。父が日頃飲んでいたものとあまりに違い過ぎたからです。
翌年の命日も同じでした。
その翌年だったと思います。私が知っている生のライムと冷えたジンを使うジンライムは最近のスタイルで、父が若かりし頃に飲んでいたものとは違うんだろうなぁと気付きました。父が若かりし頃、昭和40年代は生のライムは手に入りづらく、代用品としてミドリイロをしたライム風味のシロップを使っていました。つまり父の言うジンライムはライムシロップとジンを使った、ミドリイロのカクテルのはずです。
実際にライムシロップがある店で作ってもらいました。今のジンライムのキリッとした感じはなく、酸味がない甘くてやわらかいジンライムでした。「これだ!」と思いました、父のオーダーしたジンライムは・・・。
それからは毎年どこかのバーで、ミドリイロのジンライムを頼んでいました。今年は自分の店があります。自分で作って飲みましょう。もちろん父の分も。
一緒に飲んだことすらなかった父と乾杯です。