角幡唯介著、"極夜行"。
大学病院の分娩室、妻の出産に立ち会う著者は無事に娘を抱く・・・。
地球上には極夜という暗闇に閉ざされた未知の空間がある。その空間を求めてグリーンランド最北の村、シオラパルクへとやって来た・・・。
極夜の旅を記すノンフィクション。
読み始める前は「ずっと真っ暗なんだー」くらいの軽い気持ちだったが、読み進めるにつれて、それが如何に特殊な状況で如何に危険な状況かってことが痛切に理解でき、結果的に人間の精神に多大なダメージを及ぼすってことが分かった。暗闇ヤバい。ずっと暗闇はヤバい。
しかもただ真っ暗なだけじゃない。先住民が住む地として世界最北の村から更に北へと向かう旅なのである。つまりそこは雪に覆われた極寒の地。暗闇と寒さのダブルパンチが著者を襲うのだ。
今作での著者の目的は極夜を旅すること。長い極夜の中で何を感じ、極夜の果てに何を見るのか。
冒険とは日常から逸脱した未知へと臨むこと。だとしたら太陽ありきの我々の生活から脱システムすること、つまり極夜を旅することこそが現代における冒険に他ならないと著者は言う。確かにその通りだ。
そんな著者の冒険を記した今作、カッコいいだけの冒険記ではない。ていうか寧ろカッコいいことなんてほぼない。失敗に次ぐ失敗。それは運も含めて。4年前の準備段階からうまくいかないことばかり。
ゆえに著者はぼやきもするし逡巡もする。後悔もする。そもそもが楽観的な思考の持ち主である著者なのだが、そのあまりにもネガティブな思考への沈みっぷりに極夜の影響の計り知れなさを知る。
ここのところSFを続け様に読んだので、今作を読みながら「真っ暗で静かで寒いってほぼ宇宙じゃん」って思っていた。そしたらちゃんとそんな記述が出てきてさもありなんと思った。
宇宙に行くのは難しいけど、極夜なら頑張ったら行けなくもなさそうだし、ちょっと行って宇宙の疑似体験をしてみたいなって序盤では思っていた。けれど読み終えた今じゃ、仮にお金をくれるって言われても行きたくはない。極夜なめんな。序盤を読んでいた時の私にそう言いたい。
極夜の旅を完遂した角幡唯介に最大級の賛辞を。そして彼の極夜行のパートナー、犬のウヤミリックにも最大級の賛辞を。