詠坂雄二著、"5A73"。
まずは作者による言い訳めいた前書き。
本文:何事も想定をもって当たれるのは4例目からとされ、当局が認識した4例目は轢断屍体だった・・・。
"アメトーーク"の【本屋で読書芸人】の回で現役書店員で芸人であるカモシダせぶんが紹介していた今作。なんなら『僕の名前は覚えなくていいから詠坂雄二先生の名前は覚えてください』くらいのことを言っていた。
極めて惹かれる謎なタイトルの"5A73"。これは意味も音も持たない形だけの文字である幽霊文字の【暃】を表すJISコードである。と、この一文だけでも相当なフックが詰まっている。意味も音も持たないとは。幽霊文字とは。暃とは。
放送後は話題になって本屋にはないんじゃないかと思っていたらあったので手に取り、パラパラとめくり、結局買った。
初めて読む詠坂雄二。なのでどんな物語を書く人かも知らないし、ゆえにこの物語がどこに向かうのかも想像がつかない。
言い訳めいた前書で始まり、本文である小説を読み進めると、フィクションの世界に浸っていたはずなのに、気付いた時には不思議なところに立ち尽くしていた。なんとも不思議な小説。実に不思議な読後感。
私が最近読んだからそう感じたのかもしれないけど、プロットの根っこの部分は"
変な家"に通じるものがある。だけどその上に茂っている樹木の部分は大きさから強さから緑の濃さから全く桁違いの文学的素養で満ちている。豊かで、そして謎めいている。
ミステリーのつもりで読んでいたけど、読み終わったらミステリーではないなと思った。最もしっくりくるのはなんだろう。怪異譚・・・だろうか。
"アメトーーク"放送後、今作の重版が決定したそう。カモシダせぶん、グッジョブ。