青山美智子著、"お探し物は図書室まで"。
東京の短大を出て総合スーパー【エデン】の婦人服売り場で働く朋香は、友人の沙耶とラインで近況を報告をし合って悶々とする・・・。と始まる"朋香 二十一歳 婦人服販売員"を含む5編の連作短編集。
各話に朋香のような主人公がいて、みんな日常で何かしら行き詰まっている。
それを解決するというか、いい方向へ導いてくれるのが羽鳥コミュニティハウスの図書室の司書、小町さゆり。司書なので本を紹介することで導く。
この実在する本を紹介する本という設定が斬新だなと思った。ヒップホップのサンプリングと同じ手法じゃないの。同じジャンルのものを引用するって。
そして読み進めると、羽鳥コミュニティハウスを中心にした狭い世界の話なので、当然のように各話がリンクしてくる。あの主人公がこの脇役に。あの脇役がここでも話題に上って。ちょっとした【その後】を描いていて、それがポジティブなので読後感がいい。
そう、今作の主人公たちは、みんな最終的に前向きになる。希望に向けて歩み出す。これぞ本屋大賞にノミネートされる小説って感じなんだけど、これはこれで読むべき時に読んだらグッとくると思う。ちょっと凹んでる人に寄り添ってくれる感が強い。
最終話の主人公の娘が書店員で、彼女の語る本と本屋への愛が深い。これが作者の最も伝えたいことなんじゃないかってくらい熱い。
『作る人と売る人と読む人、本って全員のものでしょ。社会ってこういうことだなあって思うんだ』
これは真理だなーと思う。そしてあらゆるものに置き換え可能だ。映像作品でも音楽でも。
最終的に感心しながら読み終えて、本を閉じて表紙を見直して「え?」ってなった。
作中での重要アイテムである羊毛フェルト。もしかしてこの猫や飛行機や蟹がそれなの?・・・それだ、それなんだ。小町さんがチマチマ作ってるの、これなんだ。すげー。
いや、これは羊毛フェルトやってみたくなるな。ていうか呉宮堂のハニードーム食べてみたいな。ていうかていうか羽鳥コミュニティハウス行ってみたいな。
なんて思ったところで、ふと思った。このスタンスは今作の主人公たちの序盤と同じだなと。見ようとか知ろうとかしてないから気付いていないだけで、実は身の回りに似たような施設なりがあるのかもしれない。まずはその見ようとか知ろうとかするスイッチを入れてみよう。
それと背表紙のここに気付いた。
図書室や図書館に置き易い。装丁した方、グッジョブ。