今村翔吾著、"八本目の槍" 。
名護屋城の近く、呼子の浜に着いた虎之助。近くにいた黒田甲斐守長政は、朝鮮で戦ってきた我々を石田治部少輔三成が迎えにも来ていないと憤っている。虎之助もまた三成のことを想っていた。もっとも虎之助は三成と呼ぶより、未だ通称である佐吉の方がしっくりとくる・・・。
と始まる"一本槍 虎之助は何を見る"を含む7編の連作短編集・・・のような構成の長編小説。
一本槍から始まって七本槍まで、各話の主人公が違う。虎之助、助右衛門、甚内、助作、孫六、権平、市松。羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)が宿敵の柴田勝家と雌雄を決した賤ヶ岳の戦いで、華々しい活躍をした小姓衆【賤ヶ岳七本槍】の面々である。
日本史に疎い私。正直、二本槍まではピンときていなかった。これは何を描いていて、何がおもしろいのか。けれど三本槍を読みながら、ははーん、そういう構成かと納得した。
賤ヶ岳七本槍の面々は皆、自分のことと佐吉のことを語るのである。賤ヶ岳七本槍には含まれていない佐吉。しかし皆が皆、彼の非凡さ、優秀さを語るのである。
この構成を理解してからは俄然おもしろくなった。しかも物語的にもただ史実を淡々と語るのではなく、ミステリアスでドラマティックな展開が用意されている。五本槍、六本槍と緊張感は増し、物語は佳境に入る。そして七本槍。佐吉の慧眼っぷりと仲間たちとの絆の深さに胸熱である。
関ヶ原の戦いですぐ負けた西軍の大将ということしか知らず、ネガティブなイメージしかなかった石田三成。
それが今作を読むと、なぜ戦わなければなかったか、なぜあの時だったのかというのがつまびらかになり、その選択をした彼の非凡さに非常に興味が湧く。そしてどんどん惹かれていく。
読み終わった時には七本槍の面々同様、完全に佐吉に心奪われていた。そして何かがちょっと違えば、別の歴史があったんだろうなーと思った。