
佐藤究著、"テスカトリポカ"。
メキシコの北、国境を越えた先には【黄金郷】があると信じる人々がいる。メキシコ北西部の太平洋側の町に生まれたルシアもその1人だった・・・。
メキシコ北東部、タマウリパス州ヌエボ・ラレドはメキシコにおける麻薬戦争の中でも最悪の一帯である。ベラクルス出身のカサソラ兄弟が20年かけて巨大化させた【ロス・カサソラス】と新興勢力である【ドゴ・カルテル】が衝突しており・・・。
山本周五郎賞を受賞したタイミングで南日本新聞の書評に掲載されていて興味を持った。何度見ても覚えられないタイトル。何語?
本屋に行って検索する段になって、案の定、正確なタイトルが分からない。なんとか著者名で検索できたが在庫がなかった。
しばらく経った。直木賞を受賞したと知った。山本周五郎賞とのW受賞は史上2人目とのこと。そんなことはどうでもいい。流石に今度は在庫があるだろうと本屋に行った。店頭にあった最後の1冊を手にした。
テスカトリポカ。アステカの言葉。アステカの最高神の名前。
この神には他にも名前がある。
夜と風 ヨワリ・エエカトル
双方の敵 ネコク・ヤオトル
われらは彼の奴隷 ティトラカワン
そしてテスカトリポカ、煙を吐く鏡。
メキシコから始まる物語は濃厚な血の臭いと共にぐいぐい読ませる。世界観と物語と文体のマッチングが完璧。
所々ある太字、スペイン語やアステカの言葉のルビも演出としてすばらしい。惜しむらくはルビの文字が小さ過ぎて老眼だと読み辛い。
読み進めながらまだ物語の中盤くらいだと思ってるのにもう残りのページ数が少ないことに気付く。ページを繰るのがもったいないと思った。この物語を終わらせたくないと思った。
だってまだベースを作り終わったところじゃん。ここからじゃん。ここからこの奇怪にして残酷で浮世離れしたシステムが回っていくんだろ。そうだろ。それを読ませてくれよ。そう願う自分がいた。自分でも驚いた。こんな無茶苦茶な計画の成功を望んでいる自分に。
本には終わりがある。物語は結末を迎える。この物語の結末、それが崩壊を意味することは予感していた。だからページを繰る手が遅くなったんだ。
いつの間にか私もアステカの神々にやられていたのかもしれない。リベルタの語りに。バルミロの信仰に。
夜と風 ヨワリ・エエカトル
双方の敵 ネコク・ヤオトル
われらは彼の奴隷 ティトラカワン
そしてテスカトリポカ、煙を吐く鏡。
私はテスカトリポカに心臓を捧げる代わりに、うまいテキーラを捧げた。

これにテスカトリポカが納得したかは知らないが、読み進める私のガソリンにはなった。
夜と風 ヨワリ・エエカトル
双方の敵 ネコク・ヤオトル
われらは彼の奴隷 ティトラカワン
そしてテスカトリポカ、煙を吐く鏡。