綾辻行人著、"十角館の殺人"。
プロローグ:夜の海、彼は独りで闇の中にいる。今まで苦しみ、悩んできた。ゆえに計画を立て、準備をしてきた。そして復讐すべき彼らは自ら十角の罠に飛び込んで来ようとしている・・・。
犯人の描写と思われるプロローグが終わって『第一章 一日目・島』が始まる。
と、いきなり出てくるのがエラリイなる人物。それに応えるのはカー。続いてルルウ、ポウと、これはどこの国の話なんだ?と思っていたら、ちゃんと日本。大分県。
彼らは大学のミステリ研究会のメンバーで、お互いを海外のミステリー作家の名前で呼んでいるって設定。元ネタはエラリイ・クイーンにジョン・ディクスン・カー、ガストン・ルルウにエドガー・アラン・ポウ。後に出てくる女性はアガサ・クリスティーからのアガサにバロネス・オルツィからのオルツィ。そしてもう1人がS・S・ヴァン・ダインからのヴァン。
この7人が角島という曰く付きの無人島の十角館で1週間を過ごすことになり、その中で連続殺人が起こる。キャーッ!
外部と連絡は取れず出ることも容易ではない孤島という限られた空間での連続殺人。完全に本格推理小説。
プロローグに登場していた犯人らしき人物は誰だ?と性懲りも無く名探偵になるべく読み進めた。さてさてどうなる十角館。
そしたら続く『第二章 一日目・本土』で別の人物たちの別のアプローチによる物語が始まる。十角館には行っていないミステリ研究会のメンバー(正確には元メンバー)である江南を起点にして。どうやらこっちは角島の『曰く付きの』部分である事件を探る探偵役っぽい。
島と本土を行き来しながら物語は進む。十角館では殺人事件が起こっていく。本土では現在の状況は分からない。はてさて物語の決着はどこへ・・・。
いやー、またしてもコロッと騙された。
これは入れ替わりに違いない!と踏んでいた件があったんだけど、作中でちゃんと否定された。要は作者の仕掛けた罠におずおずとハマっていたわけだ。名探偵への道は遠い。
冒頭でエラリイが言う。
『僕にとって推理小説(ミステリ)とは、あくまでも知的な遊びの一つなんだ。小説という形式を使った読者対名探偵の、あるいは読者対作者の、刺激的な論理の遊び(ゲーム)。それ以上でも以下でもない。』
まさしくその通り!と膝を打った。そして、ということは、私はまたしてもそのゲームに負けたのである。連戦連敗。もう勝てる気がしない。
けれどもこのゲームに負けるということは、存分にミステリを楽しめたということを意味する。最後まで犯人が分からず、それを知った時に驚愕する。なんという喜び。カタルシス。
ということで私は、また負けるためにミステリを読むのである。どんとこい本格推理。次回も迷探偵だ。