若竹七海著、"不穏な眠り"。
国籍・日本。性別・女。吉祥寺のミステリ専門書店【MURDER BEAR BOOKSHOP】のアルバイト店員にして、オーナーが酔狂で始めた【白熊探偵社】の唯一の調査員である。
レンタカーで東北自動車道を北へ向かっている。ちょっと前に電話で藤本サツキという女性から本の買い取りと共に探偵に依頼の相談があると言われていて・・。と始まる"水沫隠れの日々"を含む4編の連作短編集。
ドラマを観たばかりでもう新作が読める幸せ。しかも4編が4編とも短編らしからぬ情報量の多さ。イコール物語の複雑さと奥行きの深さ。唸るしかない。流石の若竹七海。
そして以前から感じていて今作で強く確信したのだけど、文章が美しい。それも初っ端の文章が。だからいきなりグイッと引き込まれるのである。
特に"水沫隠れの日々"の初段がすばらしい。あまりにも素敵なので溜息をつき、そしてまたここだけ読み返した。
そんな素敵な書き出しなのに物語が行き着いたがあんな結末だとは。最初と最後の対比が如何にも葉村晶的である。
続いての"新春のラビリンス"は大晦日の寒々としたビルで幕を開け、"逃げだした時刻表"ではまさかの始まり方である。解説で辻真先も『思わず「はやッ」とぼくに口走らせた』と書いている。本当に「はやッ」だった。
そして表題作の"不穏な眠り"。人間関係が複雑なんだけど、その複雑さを紐解いていくと見えてくる人の怖さ。そして最終的には人を超えたものの怖さで物語は終わる。この展開は珍しいように思う。
ただこのタイトルは読み終わってもピンとこなかった。なんでなんだろ。むしろ【富山店長のミステリ紹介】にある初期タイトル、"昼蛾よ眠れ"の方が分かりやすい気がする。もちろん『なんだそれ』とも思うけど。
ちなみにこの"不穏な眠り"、初版限定付録として"葉村晶シリーズガイド"が挟まってる。
若竹七海のコラムも載ってるし、葉村晶ファンとしてはかなり得した気分。
次回作はいつになるんだろう。今度こそ首を長くして待つことになりそうだ。
"不穏な眠り" ★★★★☆