若竹七海著、"錆びた滑車"。
人生は選択の連続という。私は葉村晶。国籍・日本、性別・女。吉祥寺の住宅街にあるミステリ専門書店【MURDER BEAR BOOKSHOP】のアルバイト店員にして本屋の二階に事務所を構える【白熊探偵社】の調査員である。
東都総合リサーチの桜井肇から、離れて暮らす老母の行動確認という簡単そうな依頼を回されて・・・。
冒頭、青沼ヒロトなる人物と云々という短い文章がある。これは葉村晶の心の声なのか?にしては今までと雰囲気が違うというか、その男と1つ屋根の下にってどういうことだ?
という疑問を抱えて読み始めることになった。が、これは葉村の心の声に違いない。この葉村晶シリーズは基本的に一人称単視点で描かれる物語だからである。
だとするとこれは一大事だぞ。あの葉村についに男の影が現れるってことになる。どんな男なんだろ?まあ、さすがに四十も過ぎるとそういうことの一つもなくっちゃな。こちとら葉村が二十代の頃から知ってるわけだし。
なんて、ちょっとした親戚くらいの距離感で葉村を感じてる私がいた。私が読み始めたのはここ数ヶ月のことだけど、それでこんななんだから、昔っから読んでる人にとっちゃ、もっと親近感が湧いてると思う。
そう、葉村は間違いなく私たちと同じ時間を過ごしている。これがこのシリーズの、もしかしたら一番の魅力かもしれない。
そして葉村は相変わらず不運だった。どうしてもまず入院しなきゃいけないらしい。
で、有能でタフなのも相変わらず。しかしながら、さすがに年齢には抗えないようで、体力的な面ではやや衰えを感じさせる。
とはいえ、そんな相変わらずの葉村と同様、物語も相変わらず練りに練られており、終盤になって一気に怒涛の展開を見せる。
本当に無駄な設定やキャラクターなんて何一つないんじゃないかってくらい、全てが見事に収束する。もはや国宝級の職人の域。
そして最後に人の悪意や醜さがポツンと残されるのも、いつもと同様。
だから読み終えて全然ハッピーじゃないのに、なんで読み続けてるのか不思議。でも読んじゃうんだよな。
前作は"
静かな炎天"で、今作は昨年出た最新作。ここまで立て続けに読んできたけど、次作は待たなきゃいけない。いつになるんだろう。
数年後か十数年後か分からないけど、いつまででも待つし、出たら必ず読む。
そこにはまた私と同じだけの時間を過ごした葉村がいるんだろうな。楽しみだ。
ごきげんよう。