ピーター・ファレリー監督、"グリーンブック"。
1962年のニューヨーク、有名ナイトクラブ、コパカバーナの用心棒をしているトニー・リップだが、コパカバーナが改装のため一旦閉店してしまうので新たな職を探さなきゃならない。カーネギーホールの上階に住む黒人ピアニスト、ドクター・シャーリーの運転手の面接を受けて・・・。
序盤のトニーはなんか嫌な感じ。悪いヤツじゃないんだけど保身のための悪知恵が働きすぎてちょっと。
でも家族思いだし奥さんとは今でもラブラブだし、無学で下衆だけど、やっぱり悪いヤツじゃないなと思う。
それに対してドクター・シャーリーはお金持ちで学もあるし上品だし、なんといっても天才ピアニスト。ホワイトハウスで演奏したことだってある。
けどカーネギーホールの上に1人で豪奢な調度品に囲まれて暮らしている姿は、どうも幸せには見えない。
そんな2人がグリーンブック(黒人用の旅行ガイド)を持って、人種差別の激しい南部へ旅に出るというバディムービーにしてロードムービー。
監督がピーター・ファレリーってクレジットされているけど、今作がアカデミー賞の作品賞にノミネートされたって聞いて、てことはこのピーター・ファレリーは私の知ってるあのピーター・ファレリーとは別人だなって思った。
弟のボビーと一緒にファレリー兄弟として"メリーに首ったけ"とか"ジム・キャリーはMr.ダマー"とか"愛しのローズマリー"とか"ふたりにクギづけ"とか、私の大大大好きな"キングピン/ストライクへの道"を撮った、あのピーター・ファレリーとは別人だなと。
だってどれもかなり下衆いコメディーよ。あれ撮った人の作品がアカデミー賞にノミネートされないでしょ。って思ってたら、なんと本当にあのピーター・ファレリーだった。マジで驚いた。
けれども観たら納得。ファレリー兄弟の作品には、どの作品にも普通に障害者が出ていた。彼らを笑うこともあるし、彼らが笑うこともある。善人も悪人いる。つまり、健常者と全く同じ立場で描かれていた。そこに差別はない。
だからこその、人種差別をテーマにした今作のすばらしさなんだなと理解する。下衆な白人と高潔な黒人、どちらにもプライドがある。そのプライドと相手へのリスペクトのバランス、つまりお互いがどこまで歩み寄るかが肝心。そこを2人の交流を通してきちんと描いている。
だから笑いと涙のバランス、流れがとても自然だ。そこに押し付けがましさが全然ない。難解さとは無縁のエンターテインメント。
コメディーの監督がハートウォーミングなドラマを撮った良い典型だと言える。啓蒙の姿勢は皆無なのに、きちんとメッセージが伝わる。
手紙のシーンとかフライドチキンのシーンとか思い出してもニヤニヤする。
白人は融通が利かないのに対して黒人はノリで、ハートで受け入れる。あれは音楽のすばらしさだな。
そして何と言っても【勇気】。
ドクターが南部へ行くのも勇気だし、寂しい時に自分から行くのもやっぱり勇気。ああ、思い出しても泣ける。
誰にでも薦められる笑いあり涙ありの極上のドラマ。是非ともご覧あれ。
んでもって権利を持ってるどこぞの会社には、これを機に"キングピン/ストライクへの道"のDVDの再発を望む。切に!