柚月裕子著、"盤上の向日葵"。
若き刑事・佐野直也と上司である捜査一課の刑事・石破剛志は山形県天童市の駅に降り立つ。市内のホテルでは日本公論新聞社主催の将棋のタイトル戦、竜昇戦の第七局が行われている。若き天才棋士・壬生芳樹竜昇に挑戦しているのは、実業界から転身して特例でプロになった東大卒のエリート棋士・上条桂介六段。佐野と石破は竜昇戦が行われているホテルへ向かう・・・。
序章を終えての第一章では平成六年に遡り、佐野と石破がチームを組むきっかけとなった死体発見からが描かれる。
続く第二章では昭和四十六年にまで遡り、唐沢光一朗という長野県諏訪市に住む教職をリアイアした男の物語が描かれる。
第三章からはこの二つの物語が章ごとに交互に描かれていく。
読ませる力が凄い。筆致もさることながら、今作は構成からして読ませる。
今の物語の先を知るには次の次の章を読まなきゃいけない。でも次の章を読んでいる内にその物語の先、つまりそのまた次の次の章まで気になってくる。結果、どんどん読み進めてしまう。なので今回は
前作より時間がかからなかった。
将棋に関して全く知識はなかったけど、そんな私でもかなりおもしろく読めた。指している将棋の詳細は理解できなくても、その場のヒリヒリした状況は感じることができた。特に「鬼殺しのジュウケイ」の二つ名を持つ伝説の真剣師・東明重慶の将棋のシーンなんてヒリヒリを通り越してビリビリきた。
にしても将棋の駒や将棋盤にも名駒名盤と呼ばれるものが存在するんだな。言われてみればさもありなんって話だけど、今まで気にしたこともなかった。"お宝探偵団"でも観たことないし。
名品と呼ばれるものは特有のオーラを纏っているんだろうな。作品中で何度も出てくる【初代菊水月作錦旗島黄楊根杢盛り上げ駒】、是非ともこの目で見てみたい。・・・と思ったけどさすがにフィクションなので、この駒自体も実在するものではなかった。
柚月裕子、圧倒的な筆力でグイグイ読ませる。
新鮮さはあまり感じないけど、腰を据えたような安定感がある。読後の爽快感よりも、じわじわとページを繰っていくのを楽しむタイプの作風。女性作家にしたら珍しく職人気質な気がする。
まだもうちょっと著作を読んでみたい。