
佐藤喬著、"逃げ 2014年全日本選手権ロードレース"。
1年前の2013年6月23日、全日本選手権ロードレース2013当日。カメラマンの高木秀彰は有力選手が集まる集団の先頭付近を撮影したかったのだが、準備に手間取ってしまい選手たちはスタートしてしまった。仕方なく後ろから追っていると、2013年からイタリアのチームに移籍した佐野淳哉が1人、集団から遅れてふらついていた。おかしいと思った高木が声をかけたが佐野の耳には届いていないようだった・・・。
という書き出しで始まるプロローグを経て、本編は全日本選手権ロードレース2014の模様を詳細に追ったノンフィクション。
ツール・ド・フランスなどのロードレースを観ていた際に、なんとなーくこういうことなんだろうなーと思っていたことが明確になり、思ってもいなかったようなことに気付き、観ているだけじゃ絶対に分かり得ない選手たちの心情までを知ることができた。
タイトルにもなっている【逃げ】。ロードレースを観ていて、私にとってはこの逃げ集団の意味を理解するのが最も難しかった。
だって普通に考えたら「前を走ってる人が勝つんじゃないの?」って思うし、「なんで後ろの人のために前を走ってることになるの?」って思うし、「ていうか、なんで自分じゃなくて別の誰かを勝たそうとするの?」って思うから。
その辺をいろいろと調べて知って、なんとなーくは理解していたつもりだった。
そしたら本書にはその意味とか存在意義とか、どうやって成り立つのかとか、逆にどうして大集団に吸収されてしまうのかとかが、非常に分かりやすく説明されていて、今までよりも確実に深く理解できた。
しかも当の逃げてる選手たちのレース中の心情が、各人への細かな取材に基づいた上で綿密に書かれているので、駆け引きの内情や偶然や必然までも知ることができ、臨場感、緊迫感のある人間ドラマとしてもものすごくおもしろい。
本書を読んだ上でツール・ド・フランスなりのロードレースを観たら、そこから見えてくる戦い方に今までとは違った意味、気付かなかった別の側面までも見出せそうな気がする。そのくらい気付きに満ちている。
200キロを超える超長距離のロードレースだけど、全くもって体力勝負なんかじゃない。事前の戦略があり、そこに当日の天候、体調、あらゆる偶然、判断、運が重なって入り乱れて結果が出る。ドラマを超えたドラマがある。
ロードレースを観たくなった。観戦したくなった。自分で乗りたくもなったけど、本書を読むと観戦したいの方が強い。
と思ったら現在インドネシアで開催中のアジア競技大会で、
男子ロードレースが今日の午前中にあったみたい。タイムリー!だけどテレビ放送がなかったので観戦はできず。
でもこの銀メダルを獲った別府史之って本書にも出てきた。それだけでもう親近感!
しかも『終盤に5人の逃げを作った中根英登』とか『上り区間で中根選手にアシストしてもらい』とか、本書を読んだからこそのフレーズに胸熱!
別府選手、おめでとー!
ごきげんよう。