
和泉聖治監督、"探偵ミタライの事件簿 星籠の海"。原作は島田荘司の小説、"星籠の海"。
雨の夜、滝つぼで目を縫われた男性と口を縫われた女性、そして赤ちゃんの死体が見つかる。また、瀬戸内海の島では1年の間に6体もの死体が流れ着いており、死体島と呼ばれている。ライターの小川みゆきは脳科学者にして名探偵の御手洗潔をそそのかし、御手洗がなんらかの事件を解決する過程を記事にしようと目論み、コンタクトをとる・・・。
ちょっとでも探偵ものが好きなら知ってる島田荘司の御手洗潔シリーズ。言わずもがな私だって知っていたし、"占星術殺人事件"と"異邦の騎士"は十数年前に読んだ。
どちらも分厚くて読み応えたっぷりの作品。そして"占星術殺人事件"のトリックはあまりにも鮮烈だったので今でも明確に覚えている。
そんな御手洗潔シリーズ、その人気とは裏腹に映像化は島田荘司が許可しないというのが通説だった。
が、映画化していただなんて。・・・にしては公開時に話題にならなかったなーと思い、一抹の不安を覚えながらの鑑賞となった。
残念なことに私のその不安は的中してしまった。
まず、御手洗同様に最も大切なキャラクターであるはずの御手洗の相棒、石岡が出てこないという謎設定。代わりに小川みゆきという女性が相棒を務める。もうこの時点で私が知ってる御手洗潔シリーズではない。ワトソンが出なくてシャーロック・ホームズシリーズが成立するか?って話だ。
そして御手洗がイマイチ変人っぽくない。玉木宏が美し過ぎるからかもしれない。なのになんでもお見通しマン過ぎるのもちょっと。御手洗としてはそれで正解なんだけれども、なんだかどうにも受け入れがたい。
で、物語のテンポがすこぶる良過ぎる。不必要な設定や台詞がないんじゃないかってくらい合理的に物語が進み過ぎる。
なので御手洗のなんでもお見通しマン設定がめちゃくちゃ際立ってしまう。
と、ここにきて私は気付いたのである。
島田荘司の小説が長いのには意味があったということに。あの長い長い文章の中だからこそ瞬時に、しかも正確に真実を見極める御手洗のなんでもお見通しマン能力は映えるのである。暗く長い長い闇があってこそ確かな光が強く眩いばかりに輝くのだ。
この映画には暗さはあるけど長さが圧倒的に足りていない。100分そこそこで島田荘司の長編作品を描けるものか。ただ筋を追えば描けるってものではないだろう。それはただのあらすじ紹介であって、あの世界観に肉薄した映像作品にはなり得ない。
今作はCMを入れたら2時間ぴったりのテレビドラマサイズの薄っぺらい映像作品に成り下がっている。残念ながら。
てなことを書いた上で今作のことを調べてみたら、そもそもがテレビでスペシャルドラマがあり、そこには堂本光一演じる石岡がちゃんと出ていたんだそう。けれどその続編となる今作の映画化にあたって
大人の事情だかなんだかで設定変更を止むなくされたっぽい。いろいろと残念な話。
続編を作る気満々の終わり方だったけど、この出来と数字ではなさそうだなー。
せっかくの島田荘司作品の映画化だったのに。残念至極。