松岡圭祐著、"瑕疵借り"。
もうすぐ年が明けるが成人式には出られそうもないと吉田琴美は思う。コンビニでのアルバイト中だ。店長が寄ってきて、クリスマスケーキの販売コーナーで呼び込みをやってくれと言う。バイトでも1人あたり18個のノルマがあるとも言う・・・。
という始まりの"土曜日のアパート"を含む4編の連作集。
"瑕疵借り"と書いて"かしかり"と読む。瑕疵は瑕疵物件の瑕疵だ。と気付けば今作の内容に納得がいく。今作は世にも珍しい賃貸物件ミステリーなのである。
瑕疵物件とは、賃借人が死んだり事件や事故があったりして瑕疵告知義務が生じた物件のこと。この告知義務を失効させるために大家や管理会社がこそっと依頼するのが瑕疵借り。
帯にあるように、事故物件サイト大島てるが推薦している。なので読んでみようと思った。ちょっと前に興味本位で大島てるを怖々閲覧したばかりだったのだ。
"土曜日のアパート"、"保証人のスネップ"、"百尺竿頭にあり"、"転機のテンキー"、いずれも主人公は瑕疵借りを生業とする藤崎・・・と思いきや、彼は問題の解決担当者なだけであり、各物語の真の主人公はそれぞれ別にいる。上記の吉田美琴のように。
今作は、なんらかのきっかけで瑕疵物件に近付いてしまった、触れてしまった人たちの物語なのである。これは割と他人事ではない。小説だから設定が極端ではあるが、自分もいつ何時この人たちと同じ立場になるかもしれないと想像できる。もしかしたら?と思える物語。
私は初めての松岡圭祐作品、かなりの著作がある人気作家だけあって、ミステリーっぷりが手練れている。ひねりもあって泣かせもあって、最終的にちゃんといい話になっていて。
なんだけど、話の運びがうまくいきすぎて、要は藤崎の千里眼的な能力がスゴすぎて、そこはやっぱり好みが分かれるところかなと。私的にはちょっとなーと。
しかしながら【賃貸物件ミステリー】なんていうオリジナリティーを爆発させたところは素直に評価したい。(何様か?)