
大沢在昌著、"新宿鮫"。
新宿のサウナで鮫島は悲鳴を聞く。ゲイの間では有名なこのサウナ。いわゆるハッテン場というヤツだ。最中に若い男が四十代くらいの男に殴られたらしく、鮫島は仲に割って入る・・・。
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孤狼の血"を読んでハードボイルド熱が高まり、"
夜の署長"を読んで舞台が新宿ってことで"新宿鮫"を思い出し、"
クズリ"を読んで大沢在昌フォロワーとは言え、やっぱり違うなと思い、"
ガンルージュ"を読んで、こんなの読んだらもう"新宿鮫"を読み返すしかないじゃん!ってなって読み返した次第。
でも正直なところ、読み返すのはとても怖かった。
20年以上前に読んだっきりだから、当時はとんでもなくおもしろいハードボイルド小説だって思ったけど、今読んだらそうでもないんじゃないか。もしくはかなり古くさく感じるんじゃないだろうか。そんなことを思ってしまって、読み返していいものかどうか迷った。
いい思い出はいい思い出のままにしとこうか、みたいな。
だけど読み終えて、いや、もう読み始めて割とすぐに、そんなことは杞憂だったと確信した。
まずキャラクター造形が秀逸。鮫島、晶、桃井、木津、香田、誰も彼も本から立ち上がって動き出しそうな勢いだ。
記憶と違った点は、鮫島の単独捜査はさほど疾走感バリバリな描かれ方はしていないってところ。でもその分、構成が巧みだと気付いた。ハードボイルドの幕間のようにして入る【彼】の一人語りがいい塩梅だったり。
犯人探しなのは間違いないんだけど、犯人が誰か?だけでなく、なぜ?武器は何?そして次に狙うのは誰?という多くの謎を、かなり最後の方まで引っ張りに引っ張る。
なので途中では大きな謎は全く解明されないのに、不思議と物語としてはダレない。むしろガンガン読み進められる。鮫島に同化して一緒に捜査をしている気すらしてくる。これぞハードボイルド小説。一人称目線の醍醐味だ。
この一人称目線から離れて俯瞰してみると、鮫島の捜査が、ということは物語が、脇道に逸れてるように見える時がある。けれど実は逸れておらず、最終的に全てが見事に繋がっていって一点に収束する。お見事としか言いようがない。
上記の本より、圧倒的に読み終えるのが早かった。先を読みたくて仕方なかった。ページを繰る手が止まらないとはこのこと。久しぶりの感覚だった。
私の手元の本の奥付には1994年、32刷発行とあり、巻末の解説で関口苑生が『本書は、彼の生涯の代表作のひとつとなる。それほどの傑作である。』と書いている。
20年以上が経った今、"新宿鮫"は続編を重ね、間違いなく大沢在昌の生涯を代表するシリーズになっており、この言葉は間違っていなかったと証明された。
しかも20年以上前の今作が、今読んでもこんなにおもしろいだなんて。どんだけ傑作、大傑作なんだ。
こうなると"毒猿"も読んでみるかな。あ、その前に映画をまた観たいな。滝田洋二郎監督で真田広之が鮫島の。晶は、まあ、アレだけれども。Netflixにないのが残念だ。