園子温監督・脚本、"恋の罪"。
1990年代の渋谷、円山町。ラブホテルがひしめく街の片隅の廃墟のようなアパートで女性の変死体が発見される。刑事の吉田和子はホテルでセックスの真っ最中に連絡を受け、急行する・・・。
私、ずーっとずーっと水野美紀様が好きでしてね。そんな私からしたらファーストシーンは眼福ですわ。もうほんとあざまーす!
冒頭でガツンとカマすぞって園子温監督の意図は分かるんですが、それ以上の意味が見当たらないヘアヌード姿でございました。逆にあざまーす!
で、この刑事が事件の真相究明に奔走する物語なのかと思いきや、さにあらず。
だいたいは別目線で物語は進行していくわけで。
その目線の主がこちら、公私共に園子温監督のミューズである神楽坂恵嬢。
もう出てきた瞬間に分かりましたもの。彼女も脱ぎ要員だって。
菊池いずみ、夫は小説家というセレブ妻。けれど神経質で潔癖症の夫との生活を窮屈に感じ出し、同時に自分の存在意義について疑問を持ち始め、甘い話にのっかってちょっとずつ道を踏み外していくパターン。
とことんいきますやります神楽坂恵。グラマラスなダイナマイトボディーだけでなくあんなことやこんなことまで惜しげもなく披露。
そして第三の女、尾沢美津子。演じるのは冨樫真。
夜の円山町で数千円で体を売る美津子。彼女の狂気と迫力がキレッキレ。そんなキレッキレの夜バージョンと昼バージョンとのギャップがスゴい。
そして彼女が今作の大事な部分の語り部担当。彼女の台詞こそが園子温からのメッセージだと思われる。
夜と昼、女、性がテーマの今作。舞台は円山町。となるともちろんモチーフになったのは東電OL殺人事件。あの事件を元にして園子温監督が創作した物語。
というのは分かるんだけど、やっぱり園子温は男なわけで。女の物語を描くのはちょっと難しいわけで。それも性をテーマにしているから尚更難しいわけで。男目線の女ってのからはどうしたって逃れられないわけで。
私が男だからまだ男の生理に則って物語が進行しても、つまりは三人の女たちが男の都合のいいように行動しても、違和感も感じないし不快には思わない。
けれど女性からしたら、この話の流れや女たちの行動は気持ちいいもんじゃないだろうなーと思う。『んなわきゃねえよ!』って声が出ても仕方ない。
画にも物語にもパンチというか、悪い言い方だとケレン味になるんだけど、その辺のtoo muchなフロウに、美津子担当の難しそげな講釈をボトムとして捻り込んでくるのが、いかにも園子温だなーと思った。
お三方のおヌードを頂戴できるのに、不思議とエロスからは遠ざかっていってしまうあたり、恐怖が笑いに転化した"
冷たい熱帯魚"と同じベクトルを持っている点は言わずもがな。
正しいのか間違いなのか、倫理に則っているのかいないのか、そして愛なのか愛じゃないのか。
そんな諸々に深い考察を持って言及しているように見せる感じがうまい。なんか分かった気にさせるというかなんというか。
田村隆一の"帰途"という詩の引用の仕方もそういう意味で秀逸。最後にこのフレーズを繰り返すあたりが特に。
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
まあ、こんなこともあんなことも結局のところ、美津子の母・志津のぶっちぎりの狂気の前ではどうでもよくなっちゃうんだけれども。
第四の女、志津を演じる大方斐紗子にありったけの助演女優賞を差し上げたい。
ごきげんよう。