
宮下奈都著、"羊と鋼の森"。
十七歳の僕は担任に頼まれて客人を放課後の体育館へ案内した。その客人はピアノを開けて何事かをし始めた。その瞬間、森の匂いがしてきた・・・。
タイトルの【羊と鋼の森】とはピアノの内部のこと。ピアノは羊の毛でできたフェルトがハンマーとなって鋼の弦を叩くことで音が鳴る。そのハンマーと弦がいくつも並んでいるピアノの内部は、さながら鬱蒼と茂った森のよう。迷い込んだらどこへ辿り着くのか分からない。
そこに元々が森で育った主人公の外村は森の匂いを感じた。羊と鋼の森、素敵なタイトル。
この物語は調律師の物語であり、ピアニストの物語であり、ピアノそのものの物語。
成長の過程の物語で、月日もスケールも長く大きくなりきらない話なのが良い。それぞれのこれからを想像することができる。
外村はどんな調律師になるのか。あの娘はどんなピアニストになるのか。夢と希望の未来しか思い描けない。