ポール・ヴァーホーヴェン監督、"エル ELLE"。
広い家で猫と暮らすミシェル。まだ明るい中、家に突然入ってきた黒覆面の男にレイプされる。しかし警察には届けず、病院へ行き、護身用の道具を買い、淡々と日常生活を送る。そんな中、携帯に非通知でメールが届き・・・。
観終わって心の置き場に困った。『僕は何を思えばいいんだろう 僕は何て言えばいいんだろう』ってイエモンの"JAM"の歌詞が頭をぐるぐる回ってた。
当然主人公のミシェルはかわいそうな立場だと信じて観始める。けれど徐々にその「かわいそう」は薄れていく。ミシェルは強くブレない。彼女の中の真理はブレない。そして遂にはかわいそうどころの話じゃなくなってしまう。
それもミシェルだけじゃない。誰もが犯人に思える男たちだけでもない。女たちも含めて、みんなどこかしら普通じゃない。みんなどこかしら狂っている。
人間関係、男女関係が入り乱れ、錯綜する。そして観ているこちらの倫理観が揺さぶられる。
だから観終わって言葉を失くしたんだ。
監督はポール・ヴァーホーヴェン。"ロボコップ"、"トータル・リコール"、"スターシップ・トゥルーパーズ"、そして"氷の微笑"。
なるほど、あのシャロン・ストーンの出世作にして衝撃作であるエロティック・サスペンスを撮った監督だとすれば、この作品のこの感じも納得だ。
そして主演のイザベル・ユペールのすばらしさ。彼女なしで今作は絶対に成立しなかった。妖艶さと強靭さの融合した容姿と演技。本当にすばらしい。
愛情、友情、欲情、欲望。
それぞれの形において「正しい」は1つじゃないし、そもそも正しいかどうかなんて分からない。
映画のスタイルという意味だけでなく、正論が全く通用しないという意味でもサスペンスでありスリラーである。
"
エル ELLE" ★★★★