山田洋次監督、"幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ"。
フラれて自棄になった欽也は仕事を辞めて退職金で新車を買って北海道へ行く。同じく東京から来たという朱美と出会い、助手席に乗せて北海道をドライブ。立ち寄った海で島勇作と出会い、3人で旅することに・・・。
日本映画の名作ってことは分かっていたし、大まかな物語は知っているし、なんならラストシーンだって知っている。けれど1回も観たことがなかった"幸福の黄色いハンカチ"。
今になって、しかもこのタイミングで観ようと思ったのは、TBSドラマ"
ハロー張りネズミ"のグレとおっさんの旅の回を観て大号泣したから。明らかに今作を下敷きにして作られたストーリーで、オマージュでこれだけ泣けるんならオリジナルはいかほどか?ってことで鑑賞した次第。
いきなり武田鉄矢で始まってびっくり。しかもかなり長いこと武田鉄矢。新車のマツダ・ファミリアなんかに乗っちゃって。あれ?主人公、武田鉄矢?ってくらい武田鉄矢。武田鉄矢が大将?あんたが大将?J・O・D・A・N!
って思っていたら健さんが網走刑務所から出所してホッとしたのも束の間、今度は桃井かおりが登場。欽也と朱美、二人だけのドライブが始まったので、あれ?健さんは?ってなった。
なので健さんも合流した時には正直ホッとした。やっと主役三役揃い踏み。そしたらこのトリオが最高だった。
みんなある意味フレッシュ。武田鉄矢は歌手として一発屋みたいな状況で役者の経験が初めてで、桃井かおりは過激な役ばかりだったところに新境地開拓の役柄、健さんは任侠映画で染み付いたイメージからの脱却と、三者三様の再起のステージみたいな意味合いがあった模様。
しかも監督の山田洋次もずっと"男はつらいよ"シリーズを撮っている頃で久々の別作品だからなのか、撮り方や編集がこれまたなんだかフレッシュ。
そんな風に映画自体から醸し出される様々なフレッシュさが緊張感や本気度に繋がっていて、作品の質を底上げしていると思われる。言わば奇跡的なタイミングの作品。
終わってみたら、やっぱり健さん演じるところの島勇作が人間臭くてすごくよかった。
途中はしばしば【妄想・光枝のおかえり物語】だったり、何度も夕張まで行くのをためらったり、最後もビビってごねたり、揺れ動いて女々しくて、そうかと思えばダジャレを言ったり、ヤクザな生き方しかできないのかって悩みを吐露したり。
任侠映画のようなただただカッコいいだけじゃない高倉健、みじめでカッコ悪い高倉健をたくさん見せてくれた。
中でも最初の方の出所して入った中華屋でビールを飲むシーンなんて最高だ。
俺も今度、絶対真似して飲む。瓶ビールをコップに注いでしばらく眺めて両手で持って口からいってクイーッと飲む。もちろんオーダーするのは醤油ラーメンとカツ丼だ。"ハロー張りネズミ"でグレが真似してオーダーしたの分かる。超分かる。あー、早く中華屋行きたい。でもカツ丼があるとこ知らない。グレも店のおばちゃんに『カツ丼ないよ!』って言われてたな。普通ないよな、中華屋にカツ丼。
エンディング。誰でも知ってるエンディング。今さらネタバレもないだろってレベルのエンディング。黄色いハンカチがたーくさん靡いているヤツ。
もちろん知っていたし、画もイメージできてた。
なのに!
泣いたわー。知っていたのに、分かっていたのに泣けたわー。
しかも遠目で撮ってて再会した二人の会話が分からないのね。会話を交わしたかどうかすら分からないのね。やっと本物の光枝の『おかえり』が聞けると思ったらないのね。攻めるわー、山田洋次。
そして最後はまたしても武田鉄矢。最初と最後が武田鉄矢。鉄矢に始まって鉄矢に終わるなんて、やっぱり攻めるわー、山田洋次。
結論。名作は今観ても名作だった。最高のロードムービー。