東山彰良著、"イッツ・オンリー・ロックンロール"。
博多の安アパートの一室でエレキギターを爪弾くミチル。中学の時から34歳の現在まで1日4時間の練習は欠かさない。テレビでは最近立て続けにあった保健所爆破事件のことをやっている。そこにミチルがギタリストを務めるバンド、ロウ・マインズのドラマーで同級生の典男がやってきて・・・。
2015年に"流"で直木賞を受賞した著者の2007年発行の今作。本屋で文庫の棚を眺めていて、著者名とタイトルで買ってみた。
裏表紙のあらすじに『爆破事件』って文字があったので、ロックバンドのギタリストが事件に巻き込まれて犯人だと疑われてしまい、逃亡しながら事件の真相を解明していく・・・みたいな話を勝手に思い描いていたんだけど全然違った。
売れないロックバンドがひょんなことから売れるきっかけを得たものの、メンバー間のいざこざや周囲とのいざこざで、ロックしながらも器用にはロールしていけない・・・みたいな話だった。
ロックやブルースへの愛と教養に満ちていて、それでいて社会から外れたおかしな奴らが次々に出てきて、暴力もセックスも当たり前にある世界。
読みながらなんか読んだことがあるような気がしてきて、でも絶対にこの著者の本を読むのは初めてで、じゃあこの既視感ならぬ既読感はなんだろう?って考えてたら、フッと降りてきた。
中島らもだ。
その世界観同様、小難しくない平易な文体も似てる。僕が大好きな中島らもに。
なんだけど主人公たちが器用にロールしていけないのと同じく、小説自体もうまいことロールしていかなかった。私にとっては。
私が思い描いていた物語と違ったってのもあるし、私が読みたいポイントと読ませてくるポイントが違ったってのもある。私が惹かれたキャラクターが途中退場しちゃったってのもある。
これは良し悪しってよりも相性だなと思った。
けれど途中でミチルがカーステレオで聴いてるのがミッシェル・ガン・エレファントだったりすると、そんなに相性は悪くないんじゃないかと思ったりもして。
どっちつかずの煮え切らない私のこの感じ。人間なんてそんなものじゃないか!
・・・と、今作中で時折出てくるこの『〜じゃないか!』の部分はいずれもとても良かった。読み手の予想を裏切りつつミチルの本質を端的に表していた。ロックだった。
なので相性を確認するって意味でも"流"は読んでみたいなと思ってる。