
高野和明著、"ジェノサイド"。
アメリカの大統領であるバーンズは、いつもと同じ慌ただしい朝を迎えた。執務室での大統領日例報告への参加者がいつもより1人多く、科学技術担当大統領補佐官のガードナー博士が末席に連なっている。大統領日報の最後のページに『人類絶滅の可能性 アフリカに新種の生物発見』とあり、この件に関する意見を述べるためにガードナー博士は呼び出されていた・・・。
上記はたった13ページのプロローグの内容に過ぎない。
真の物語は、まずイラクでのミッションを終えたばかりのアメリカ人傭兵・イエーガーから始まる。難病を患い瀕死の子供を抱えているため、すぐにでも子供の元へ向かいたいイエーガーだったが、次なる作戦に誘われる。ギャランティーは申し分ないが秘密の多いミッションだ。
と、今度はすぐに日本の大学院生・古賀研人のパートに切り替わる。大学教授である父親が亡くなって葬儀が終わり、火葬場で父の友人から話しかけられる。『【ハイズマン・レポート】というのを聞いたことがあるかい?』と。
ここからイエーガー、研人、そしてバーンズの3つの国、場面、立場、視点が切り替わりながら物語は進んでいく。【ハイズマン・レポート】なるもので繋がって。
謎が謎を呼ぶとはこのこと。『第一部 ハイズマン・レポート』では、3つのパートがどこでどう交錯するのか読めないまま、それぞれのパートはとてつもない情報量を備え続けていく。この情報量だけで圧倒される。
続く『第二部 ネメシス』で徐々に交錯していく3つのパート。情報量だけではなく、物語としてきちんと構築されていく姿はもう圧巻。どうやったらこんな物語を思いつくのか。そして形にできるのか。
そして最終章『第三部 出アフリカ』では、もちろんきちんと物語を収束させた。これもまた圧巻である。
勝手に冒険小説だと思って読み始めたら実はサスペンス小説で、けれど途中でSF小説とも言えるなって思った。ある設定がSFだよなって気付いて。
そして物語を最後まで読み終えて解説を読んでいたら驚愕の事実にぶち当たった。ある設定どころか、その根幹のそもそものところからフィクションだったとは!"魁!!男塾"に出てくる民明書房が実は架空の出版社だったって知った時と同じくらいの衝撃!見事に騙されていた!なんの疑問も持たずに!(ちなみに民明書房に関しては『ゴルフの起源は中国の呉竜府という人物によるとされている』ってところで、やっと「おや?もしかしてこれは?」って不信感を抱いた私。)
下の★、私はよっぽどじゃないと満点の★★★★★はつけない。例えどんなに話がおもしろかろうが、自分の中にグッとくる部分がないと満点はつけない。それがマイルール。
ってのを踏まえた上での今作、話はおもしろいんだけどグッとくる部分はそんなになかった。いつもなら★★★★だと思う。
なんだけど今作に関してはその通例が当てはまらない。グッとこなくても、それでも満点をつけなきゃ収まらないくらいに作り込み方と構成が圧巻だった。とてつもない技術点の高さ。
【このミステリーがすごい!】と【週刊文春ミステリーベスト10】の両方で1位をかっさらったのも納得した。