塚本晋也監督、"野火"。原作は
大岡昇平の同名小説。
第二次世界大戦末期、フィリピンのレイテ島。肺病を患った田村一等兵は隊からも病院からも疎外される。わずかの芋を抱え、一人密林の中を彷徨う田村。目の前の林の中から一筋の煙があがっていた・・・。
高校時代に読んだ原作小説に衝撃を受け、二十年前から映画化を目論んでいた
塚本晋也監督。しかし資金難のため、ずっと実現できなかった。けれど311以降、なんとしても映画化したいと切望した末の今作である。
緑が深く美しい大自然の中、敗色濃厚な日本兵たちは空腹を抱えて右往左往する。たまに降ってくる敵の砲弾をやり過ごしながら、腹の足しになるものを求める日々。敵はどこだ?敵は誰だ?一体全体、何と戦っているんだ?そんな疑問すらもう頭にはないように見える。わずかばかりの芋を齧りながら、死に絶えた仲間の横を行きながら、朽ちていくだけの骸には目を向けることなく、ただ今を、ただ今日を生き抜いていくだけだ。
この映画を観ている間、観客は戦場を疑似体験する。
きれいごとなんかじゃない、正義も大義も関係ない、目の前にあるのは飢えと死だけ、求めるのは食料と水だけ、そしてたまに聞こえてくる敵機の轟音に身をすくませるだけ。
戦場でのラストシーン、喉元までせり上がってくるものがあった。隣席の男性は小さく声をあげていた。
今日は終戦記念日。僕も祈りを捧げよう。祈りを・・・。
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野火" ★★★★
マルヤの
ガーデンズシネマにて、8月21日(金)まで上映中。