
大岡昇平著、"野火"。
太平洋戦争末期、敗色濃厚のフィリピンのレイテ島にて、結核を患ってしまった田村は本隊からも病院からも見放される。一人で山道を行く田村の眼前には黒い煙が立ち上っていた・・・。
昭和27年に刊行され、今も読み継がれている戦争小説。先日、弊店にいらした
塚本晋也監督はこの小説を映画化し、そのプロモーションで来鹿されていたのである。(映画"野火"は
ガーデンズシネマで8月8日(土)より公開。)
この小説、途中でその構成の特異さに気付く。そしてちょっと安心する。主人公の行く末を知って。そして納得する。淡々と流れていく物語に。そして感じる。戦争の生々しさを。
レイテ島での戦死者の多くは敵の砲弾によるものではなく飢えによるもの。言わばこの主人公は飢えと戦っていると言っていい。飢えを凌ぐための欲求と人間としての尊厳や矜持とがせめぎあう。極限の場で。
国や組織が外交手段とか国防のために戦争をしたとして、そこにどれだけの大義があろうとも、結局のところ矢面に立つのはただの個人でしかない。目の前に死があったら国がどうとか大義がどうとかってことなんかよりも、自分自身の命としか向き合えないんだってことがまざまざと分かる。
まるでそんなことは小さなことだと言わんばかりに大局だけを語られても、僕は全く同意しかねる。