私が昔から思っていたこと。それは私が見ている”赤”とあなたが見ている”赤”が同じ”赤”かどうかはわからないし、その確認は絶対にできないということ。
夕日とトマトとポストが同じ色だという認識は共有できても、それらの”赤”い色自体を共有できているかは誰にもわからないのだ。
そしてそれは”赤”だけに限らないわけで、つまりは私が見ている世界とあなたが見ている世界は全く違う色彩に彩られているかもしれない。
脳科学者、茂木健一郎著”脳と仮想”の中に、同じことが書かれていたときには胸が小躍りした。
”自分の感じている赤と、他人の感じている赤が、果たして同じ赤なのかというもっとも簡単に思えることですらわからない。ましてや、他人の複雑で豊かな恋愛の体験の全てを、自分のものとして体験することができるはずはない。”
おそらく存在しているであろう現実がある。それを認識しているのは私たち一人一人の脳である。ということは、私たちが現実だと思い込んでいるもの、それは脳が描いた仮想に過ぎない。体の一部分、一器官であるはずの脳がつくりだしているのが私たちの世界なのだ。世界は仮想で成り立っている。
ゆえに私とあなたがすべてを共有することは不可能だ。茂木氏はそれを”断絶”という。
”この世界は、お互いに絶対的にのぞき込むことのできない心を持った人と人が行き交う「断絶」の世界である。世界全体を見渡す「神の視点」などない。あるのは、それぞれの人にとっての「個人的世界」だけである。”
そしてこの”個人的世界”を認めたうえで他者について考える。他者を理解しようとする。そこで初めて”私たちは他者の心という仮想を生み出す”のだ。
私の仕事にとって最も大切なこと、お客様が求めていることを知覚すること。そのためには想像力が、”お客様の心という仮想”が必要なのである。
脳と仮想
茂木 健一郎 / 新潮社
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