先週のこと。
深夜1時半、以前よくいらしていた女性2人が久々にご来店。2年振りくらい。
夜のお仕事をされている2人はいつもテーブル席なので、あまり話したことはない。でもよく一緒にいらっしゃっていた男性とは結構話していた。60代前半くらいで小柄で痩せていて白髪混じりの男性。なぜかって言うと、いわゆるアフターってヤツで、その男性が先にいらして2人を待っている時に話をしていた。饒舌だけど押し付けがましさはなくて、マッカランの水割りを飲みながら静かなトーンで話す方だった。
だけど久々にいらしたこの日は女性2人だけだった。
オーダーはコーヒーとカフェオレとクロックムッシュ。以前と同じ。
さて作ろうとしたところで声がかかった。『コーヒーを2つにしてください。』
あ、やっぱりあの男性があとでいらっしゃるんだな。マッカランの水割りのあとはコーヒーだもんな。今日はもう飲み過ぎのかな。そう思ってコーヒーを2杯分淹れた。
淹れ終わってもまだ男性はいらっしゃらなかったので、1杯分だけカフェオレと一緒に出した。
そしたらもう1杯も出してくださいって言われて、もうすぐ来るんだろうと思って出した。
そのまま2時を回った。閉店のための洗い物をボチボチ始めた。ドアが開いた気がした。・・・気がしただけだった。
2時半になった。まだあの男性はいらっしゃらない。
3時を回った。女性たちはしゃべり続けていた。
3時半、時間に気付いたようで席を立った。
1人の方がおっしゃった。『こっちのコーヒーは手付かずですけど気にしないで。』
・・・?
その方がトイレに向かったので、残った方に訊ねた。「あの男性がいらっしゃるはずだったんですか?」
その方がちょっと逡巡した末に小さな声でおっしゃった。『・・・来ていたと思います。』
・・・?
お帰りになる2人の背中を見送りながら、言葉の意味を考え続けた。
・・・!
そうか。そういうことか。
気付いた瞬間、もう誰もいないテーブル席を見た。
当然だけど、僕の目には誰も見えなかった。
でも、あの時、ドアが開いた気がしたのは間違いじゃなかったんだって確信した。
今度あの2人がいらしたら、マッカランの水割りをそっとお出ししよう。
ごきげんよう。