
中村文則著、"掏摸(スリ)"。
「僕」は掏摸。身なりのいい裕福そうな人の懐しか狙わないプロの掏摸。しばらく前に大きな仕事をして東京を離れていたが戻ってきた。そして偶然、一緒に仕事をした立花に会ってしまい・・・。
最初の数ページ、スリを行う時の描写がスゴい。ゾクゾクする。スリの心理、瞬間瞬間での判断、みなぎる緊張感。読んでいて呼吸が止まる。
その時点で帯に書いてある通りの傑作だってのは分かった。
この世界には僕らの知り得ない闇がある。その闇に触れてしまった「僕」。いや、引き寄せられたんだ。闇に。そして「僕」はその闇に飲み込まれる。取り込まれる。
闇に取り込まれてしまったら、二度と逃れることはできない。
それは分かっていながら、最後のコインに「僕」同様、僕も希望を託した。