戊井昭人著、"まずいスープ"。
バイトから帰ったら父親が作ったスープがあった。食べるとひどくまずい。翌日、サウナに行くと言って出て行ったまま父は消えた。母親はコタツに入ってずっと酒を飲んでいる・・・。
表題作、"どんぶり"、"鮒のためいき"という中編3作からなる1冊。
どれも結構シリアスな状況なのに緊迫感とか切迫感がなく、なんならちょっと笑えてしまうくらいの小説。
人生ってそんなもんだよなーと思う。どれだけ切羽詰まっていたってお腹は空くし、眠たくなるし、笑えることもあるし。切羽詰まっているからってずっとずっと切羽詰まってばかりじゃいられないわけで。
そういう意味ではとてもリアルな小説。
そして飾っていない言葉もリアル。平易で日常に溢れている作り物じゃない言葉。
全然知らない作家で、本屋に行ったらこんなのがあったので手に取って興味を覚えた。
だから何も知らないままなんとなく読み始めたわけで、正直、"まずいスープ"と"どんぶり"はイマイチ気分が乗らなかった。
でも最後の"鮒のためいき"はなんかいいなって思えた。文章と世界観に慣れただけなのかもしれない。
鍋をつつくシーンが好き。あまり具体的に想像するとちょっとアレだけど。あと、うっかりスナックに入っちゃったシーンも。
今、フッと思い付いた。
移動、するんだよね。物語的に必要?って思えるような移動。場所はもちろん、会話とか回想とかも。突拍子もないって言うか。詳しい説明もないし、理由もないし、オチもないし。
そこが多分、この作家の魅力だと思う。