増田俊也著、”木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか”。
年末に読み終えた、2段組696ページの大著。おもしろかった。そして壮絶だった。木村政彦の人生。一柔道家の人生。柔道史上最強の柔道家の人生。鬼の木村の人生。『木村の前に木村なく、木村の後に木村なし。』と謳われた超人の人生。
特に格闘技が好きなわけでもなく、柔道に思い入れもなく、木村政彦の名前すら知らなかった私。しかしながらどういうわけだかこの本の求心力には抗えなかった。本屋で手に取って、そのままレジに並んだ。
今の柔道は【講道館】の柔道で、それも乱取をしやすくするための、もっと言えばスポーツとしての柔道であり、古来の武術武道としての柔道からするとかなりスポイルされたものだと知った。これだけでも目から鱗だ。
しかも昔は流派が多く、競技人口も多く、身体能力の優れている人がまずするのが柔道だった。そしてその柔道は当て身(パンチやキック)ありの、今で言う総合格闘技に非常に近いものだった。
と、全く知らなかったことばかりで目から鱗がボロボロボロボロ落ちまくり、序盤は5ページごとに「へぇ~。」だの「えぇっ!?」だの「はっはぁ~。」だの言いながら読んでいた。昔の柔道が格闘技というより断然武道として存在していたこと、確実に実戦を想定したものだったところにビンビンきた。
そこに来ての木村政彦である。彼はそんな戦前戦中の猛者がひしめく柔道界において15年間不敗だった。それも群を抜いて強かった。おそらく当時、日本中どころではなく地球上で最も強かったのではないだろうか。とさえ思えてしまうほどに強さに説得力がある。
そこからの戦後、いろいろあってプロレス転向後の力道山戦である。もう、とんでもない悲劇である。そこからの彼の人生は180度の方向転換を強いられた。言葉もない。
あまりにもショックな映像だ。でもこんな映像もある。あのグレイシー柔術の創始者、エリオ・グレイシーとの一戦。
立技はもちろんだが、寝技がとてつもなく強かった木村政彦の真骨頂。胸がすく。
全盛期の木村政彦の戦いぶり、生で観てみたかったなぁ。と、切に思う。
ごきげんよう。