西村賢太著、”どうで死ぬ身の一踊り”。表題作は芥川賞候補作。実在した作家藤澤清造の没後弟子を名乗る作者の私小説集。だから一応はフィクション。
そのダメっぷりに強烈なシンパシーを抱いた藤澤清造を崇拝し、彼の全7巻からなる全集を出そうと計画するも、万年貧乏な身の上。そこで最近一緒に暮らしだした女の親に借金をし、300万円を手に入れる。大して仕事はせず、頭の中は藤澤清造のことで一杯だ。その他に考えるのは女のことくらい。しかしその女に対してあまりにも理不尽で一方的なキレ方を見せ、あげく手を挙げる。そんなろくでなしの物語。
いやぁ、酷い。こいつは酷い。自分は興味のあることしかせず、生活は女任せ。なのに気に入らないことがあるとグジグジ言う。相手が文句を言うとキレる。そして暴力。なのに相手が縁を切ろうとすると下手に出る。改心したフリでとても下手に出る。なんとか関係が修復しても、しばらくするとまた元通り。の繰り返し。
女性も女性なわけなので、割れ鍋に綴じ蓋な気がしなくもないが、いやぁ、酷い。と思うのだが、心のどこかで彼の素直さを認めてしまっている。身勝手なまでの素直さが気持ちよくもある。カツカレーを投げ散らかすくだりの理不尽で身勝手で愚かで独りよがりな心情は、あまりに酷すぎて強烈な嫌悪感を抱くが、同時にそのあまりのくだらなさになんと言うか母性的な「私がどうにかしなきゃ」な思いを抱いてしまい、かわいいような気がしてくるのである。
DVの嵐の真っ只中にいながら、そこから逃れられない、もしくは逃れようとしない女性の心情がわかった気がした。危ういところだ。私は男でよかった。
作中に出てくる熟語で、読めなかったり意味がわからなかったりするものが非常に多い。最初に収録されている50ページほどの”墓前生活”の中で私がわからなかったのは以下のもの。わかります?
雨霰 昵懇 掃苔 虚心坦懐 嗟嘆 残渣 雌伏 銅臭 黄白 殉情