井口奈己監督・脚本、”犬猫 (35mm版)”。スズ役が藤田陽子、ヨーコ役が榎本加奈子。
のっけからわかりやすい。なぜスズが彼氏の家を出るのか?の理由が明白だ。そしてスズとヨーコの関係も台詞を聞いていれば、すんなり理解できる。
そう、全編を通してわかりやすいのだ。8mm版と比べて、設定や心情がわかりやすく表現されている。つまり、ちゃんと説明されている。
しかしその分、8mm版が持っていた毒気がなくなった。ライト&マイルドになって、ちょっとハッピーな物語ですらある。いや、8mm版もハッピーだと思う。しかしそのハッピーは、女子が持つ痛さや不可解さを踏まえた上でのハッピーだった。それが35mm版は、単純にハッピーだ。ちょっと寂しい。
ヨーコ役が榎本加奈子ってのも説得力を減少させている。ヨーコ役にしては随分とキレイだからである。8mm版のヨーコが纏っているちょっとした負のオーラがないのだ。これもちょっと寂しい。
ただ、日常と同じ地平にある些細なドラマである点は変わらない。飾らない会話、何気ない仕草、気負わない表情、これらが醸し出すユルい空気が見事に活写されている。8mm版を観ていなかったら、かなり満足しただろう。
4月12日(日)サンエールかごしまでの
【心くすぐる 井口奈己監督の世界】で、8mm版と35mm版の”犬猫”を観比べてみるのも一興かと。