杉浦日向子著、”百日紅(さるすべり)”。
葛飾北斎、娘のお栄、居候の善次郎を軸に、江戸の市井の人々の暮らしを背景に、時代を超えてなお通じる人の情念を描いた連作集。
どれも短い話ながら、内容が濃い。画に説得力があり、画が語る。一見さらっとした印象を受けるのだが、【絵】を題材にした物語だけあって、描き込むべきところは凄まじく描き込んである。また、台詞が全くない画だけでの表現も秀逸だ。漫画の持つ表現力に心打たれる。特に下巻収録の”美女”。ラスト前の2ページが私のフェイバリット。天邪鬼な御隠居の持つ愛情と寂しさがいい。
かといって台詞がおざなりなわけではない。これもまたすばらしい。下巻収録の”酔”。酒飲みの心持ちを汲んだ一言、『酔えねえ酒なんざ せつないばっかりにちげえねえもの』がいい。そして同じく下巻収録の”心中屋”。わかり過ぎて気持ちが悪い一言、『飯(まま)食って糞(ばば)するのが面倒でよう』は、作者が人間の心の深淵を見つめていると確信させる。
他の作品も是非読んでみたい。限りある彼女の作品の全てを。