三浦しをん著、"まほろ駅前番外地"。
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まほろ駅前多田便利軒"の続編であり、スピンオフ集のような連作短編集。
多田と行天だけでなく、前作に出てきた若いながらも裏社会で頭を張る星、入院中で多田を息子と間違える曽根田のばあちゃん、両親から構われない小学生の由良公、バスの間引き監視を依頼する岡夫妻たちにもスポットが当たる。
認知症の曽根田のばあちゃんがどういうわけか正気に戻って話す【ろまんす】の話、好きだな。岡夫人の第三者としての視線で描かれる多田と行天の様子もいい。星のツッパっていてもやっぱり若いんだなと思わせる純粋さが垣間見えるところもいい。由良公には大人ってものに、大人になるってことに諦めて欲しくないなって切に思う。
どのキャラクターにも小説の登場人物であるってこと以上に感情移入してしまっている自分がいる。
もう僕も【まほろ】の住人なのかもしれないな。なんてちょっと思う。
前作同様、グッときた台詞。
『悪くなかった。ろまんすも、そのあとの生活も。一生、あの気持ちを知らずに過ごすひともいるだろうが、私は知ってよかったと思ってるよ』
『お金のためだけに働きつづけられるひとは、そう多くはないってことです』
台詞ではなく、グッときた心情描写。
『男女や夫婦や家族といった言葉を超えて、ただなんとなく、大事だと感じる気持ち。とても低温だがしぶとく持続する、静かな祈りにも似た境地。』
『由良は諦めを知っている。むなしさに押しつぶされず、さびしさをやりすごすために必要な。生きるうえでのたしなみだと思っている。』
僕も由良公と同じく、諦めを知っている。それは前作の時にここに書いた。
だからこそ、由良公には諦めて欲しくない。
もし目の前に実際に由良公がいたら、「諦めるなよ。おまえが思ってるよりわりかしいいもんだぞ、大人も。大人になるってことも。」って言いたい。
それを信じられるくらいの強さは、前作と今作を読んだ今はあるかな・・・。
やっぱりもう僕も【まほろ】の住人みたいだ。