我が家は1階に大家さんの事務所があり、そこに毎月直接家賃を持って行く。大家さんはもうすっかりおじいちゃんだけど仕事を続けている。作業着を着て測量に出掛けている。自営業だから定年なんて関係ないのだ。たまに奥さんも事務所にいらっしゃる。二人とも穏やかで、とても素敵な老夫婦だ。
大家さんも奥さんも家賃を支払いに行った時にちょこっと話しかけてくる。『店はどうね?忙しいね?』 残念ながら「はい!忙しいです!」って答えたことはないけれど、この昭和的なやりとりは実に心地いいものだ。
先月末もいつものごとく支払いに行った。
すると事務所の従業員の方が『奥さんから聞いてない?今月末で事務所を閉めるんだけど。だから来月からの家賃は振り込みになるかも。』っておっしゃった。やっぱり高齢だから閉めるのかぁと思った。大家さん夫婦とのちょっとした挨拶ができなくなるのがなんとも残念だった。
後日、新聞をめくっていたら大家さんの名前を見つけた。・・・死亡広告の欄に。
3月から病気療養中だったらしい。そんなに会ってなかったっけ?って思った。事務所はずっと開いていたから病気だなんて思いもしなかった。そう言えばここんとこ従業員の方しかいなかったような気もする。最後に会ったのがいつかわからないのが、すごく悔しい。
享年81歳。亡くなるほんのちょっと前まで仕事をされていたわけで、言わば生涯現役だった。仕事柄日に焼けていて、ニカッて笑った時に肌とのコントラストで歯がより白く見えた。そんな笑顔が印象に残っている・・・。
合掌。